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東京高等裁判所 平成10年(行コ)127号 判決

神奈川県藤沢市鵠沼松が岡三丁目九番一七号

控訴人

三浦良策

右訴訟代理人弁護士

福家辰夫

鈴木克巳

柏木栄一

神奈川県藤沢市朝日町一丁目一一番地

被控訴人

藤沢税務署長 磯部喜久男

右指定代理人

竹村彰

井上良太

小平宣男

山本英司

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求める裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  控訴人の平成三年分所得税について被控訴人が平成四年九月二九日付けでした重加算税賦課決定処分を取り消す。

3  控訴費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文第一項と同旨。

第二事案の概要

事案の概要は、次のとおり付け加えるほかは原判決「事実及び理由」の中の「第二」ないし「第四」記載のとおりであるから、これを引用する。

(当審における控訴人の主張)

一  控訴人は、八〇〇〇万円を超える税を余分に支払うことになるような危険を冒してd点を定めるはずはなく、本件土地の譲渡について本件特例の適用がないことを知らなかった。

二  控訴人は、本件建物の増築に基づく表示変更登記手続のための測量を行う前にd点を定めていたものであって、仮装隠ぺいの故意はなかった。

三  控訴人は、一〇年余にわたって信頼してきた高柳に本件確定申告を全て任せたものであり、本件確定申告に係る文書は全て高柳が作成したものであって、控訴人が故意に仮装隠ぺいをした事実はない。

第三証拠関係

証拠関係は、原審記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第四当裁判所の判断

当裁判所も、控訴人の本件請求は理由がないと判断する。その理由は、次のとおり付け加えるほかは原判決「事実及び理由」中の「第五」記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決書二〇頁六行目冒頭から同二一頁四行目までを次のとおり改める。

「 右事実によると、控訴人がシミズ・ヒューマンケアに譲渡したのは本件土地だけであって本件建物は譲渡の対象となっていなかったことが明らかであり、このことは契約当事者として控訴人自身当然承知していたとみるべきである(控訴人の自認するところでもある。)。

また、控訴人の依頼により本件建物の位置について測量した稲葉測量士が作成したB測量図によれば本件建物は本件土地の上に位置するものではないとされており、右測量図は確定申告前に控訴人に交付されているから、控訴人は本件建物が本件土地の上に位置するものではないことを承知していたとみるべきである(控訴人も、本件建物が本件土地内に入り込んでいるとしても、せいぜい屋根の張り出し部分が一部の箇所で約四〇センチメートル入っている程度であることを承知していたことを自認している。)。

そうすると、控訴人は、本件確定申告の時点において、本件建物の譲渡があった旨及び本件建物の大部分が本件土地上に位置している旨の確定申告書の記載が事実に反すること、すなわち誤った事実であることを知っていたと認めるべきである。

なお、被控訴人は、控訴人は開発事業の実行が遅れることを予想してその目処が立つまでは本件建物に居住することにし、そのために譲渡対象土地から本件建物を除外する目的でd点を定めたのであるから、本件土地上に本件建物が存在しないことを明確に認識していたと主張する。これに対し控訴人は、d点を定めたのは右のような目的に出たものではない(譲渡する土地を割合的に区分するためであり、本件建物の位置を考慮したものではない)と主張し、現に開発事業は長期化していないし、控訴人は別に建物を建てており本件建物が空いていたため両方の建物を使ったにすぎない等の事実を挙げて争っており、この点が事実上の争点となっている。そして、控訴人本人の供述中には右に挙示する事実の存在をうかがわせる部分があるが、一方、d点を定めた際建物の位置を認識していたとみられる部分もあり、右主張はにわかに採用し難いところがある。

しかし、いずれにしても、前記のとおりの理由により控訴人は本件建物が譲渡の対象とされたとの事実及び本件建物の大部分が本件土地上に位置するとの事実が真実と異なることを知っていたと認められるのであって、右の点はこの認定を左右するものではない。」

二  当審における控訴人の主張について

1  仮に、控訴人が、d点を定める時点において本件土地の譲渡について本件特例の適用がないことを知らなかったとしても、前記認定の事実関係の下においては、本件確定申告の時点にはその適用がないことを知っていたとみるべきである。

2  仮に、当審における控訴人の主張二のような事実があったとしても、前記認定の事実関係の下においては、控訴人は本件土地上に本件建物が存在しないことを知っていたというべきであるから、右事実は控訴人の仮装行為の故意の認定を左右しない。

3  控訴人が本件確定申告に関する事務を高柳に任せ、同人がこれに係る文書を作成したことは認められるが、原審における高柳の証言によると、高柳は控訴人から本件土地の売買契約書を交付され、これを見て本件建物が譲渡の対象に含まれていないことを認識していたことが認められるから、控訴人及び高柳には本件確定申告にあたり、本件建物が譲渡の対象に含まれると仮装したことについて故意があったと推認され、これを覆すに足りる証拠はない。

第五結論

したがって、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六七条一項本文、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(平成一〇年一〇月一二日口頭弁論終結)

(裁判長裁判官 新村正人 裁判官 生田瑞穂 裁判官 宮岡章)

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